鮎は好きですか。私は最高に好きです。これからもし偉くなったら、毎日、みずから鮎に塩を振って、棒に差して囲炉裏で焼いて食べる人生を送りたい。そういえば料理家の北小路魯山人も若い時に、「いつかめっちゃ鮎食いたい」という野望を持っていたようで、実際に鮎を食べまくる機会に恵まれた人生を送ったわけです。私も魯山人を見習いたいものだ。
こないだ、大好物であるその鮎が夕飯に出まして、香りを楽しみながら静かに食べました。子供の頃は鮎が大嫌いでした。鮎というより、頭が付いた魚の塩焼きが全部嫌いでした。食べるものに頭が付いていて、その眼が食べる自分をじっと見ているのが恐かったんです。
観光地なんかで、鮎とか岩魚を串に差して焼いていたりしますが、食べ物というより呪物に見えました。そりゃそうですよ。自分の嫌いなものが束になって串に差さってるんですから。嫌いだって言ってるのに、わざわざ祖父がそういうのを買ってくるんですよね。ほれ食え、とかいってこっちに渡そうとするんですが、悲鳴をあげて逃げ回ってました。
それがいつの間にか逆転して大好物になったのですが、きっかけが思い出せません。そんなの無くても、自然と好きになったり嫌いになったりするのかもしれませんが、克服したとかいうレベルではなく大好きになったわけなので、もうちょっとその、大好きになるまでの思い出があってもおかしくない気がするんですが……。
鮎というと食べること以外でも思い出があります。小学生の時、体育館に週一回ぐらい集められて、校長先生の話を聞く時間がありました。けっこういい話をしていた気がするんですが、いつも眠かったのでよく覚えてません。そんなある日、校長先生が急に「この漢字なーんだ」ゲームを始めたのです。
四角い紙に漢字が一字書いてあり、それを全校生徒の前で出して、「この漢字分かる人いるかな~」と募るわけです。答えたい人は手を挙げて答えると。まあ、みんなだるいので手なんて挙げません。出てくる漢字は「龍」みたいな、小学生でも普通に分かるくらいのものでした。
クラスに一人くらいいる漢字に詳しい人が、いつも手を挙げて解答を独占しており、全校生徒300人くらいのうちプレイヤーが数人しかいないという有様で、それ以外はもちろん寝てました。私も体育座りでぐーすか寝てたんですが、あるとき目を覚ますと、一向に誰も答えられないまま体育館が静まり返っていたのです。出されていた漢字は「鮎」。当時は大嫌いだったのですぐ分かりました。
なので、手を挙げて答えました。「あゆで~す」と。そうしたら、やたら褒められまして、壇上に立たされて全校生徒の前で拍手を受け、そのあと校長室で校長先生と教頭先生に褒められ、学級新聞に写真入りで載せられました。でも、鮎はその後もずっと嫌いでした。えーと、オチが見当たらないのでこのへんで終わりますか(;´・ω・)