口から出まかせ日記【表】

もうすぐゴールデンウィークですね(早)

我いかにしてカブ主となりしか【中編】

 

回の続きになります。

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そういえば、なんなんだこの記事のタイトルって思った人もいるかもしれません。元ネタは、内村鑑三というキリスト教思想家の著書、『余は如何にして基督信徒となりし乎』から。あくまでオマージュでございます笑。


で、ようやく私がスーパーカブに初めて跨ったのが二十歳になったころ。大学の夏休みを潰して運転免許を取得。晴れて実技無しで原付免許資格も手に入れました。そして新学期突入と同時に、国道沿いに建つ「ドライブイン」的な、長距離輸送のトラックの運転手がラーメンを食ったり、座敷でゴロゴロしてる埃っぽい感じの食堂兼休憩所で出前のアルバイトを始めたのです。ドライブインなんだし待ってりゃ勝手に客が来るんだから出前なんかしなくてもいいんじゃないかなと思いながらも、半年間大変お世話になりました。


店には出前用のスーパーカブが3台あったのですが、2台は経年と整備不良で駄目になっており、一応乗れる1台だけでなんとかやっていました。車種は確か、スーパーカブカスタムっていう1980年代に出た50ccモデルで、後ろの荷台にはその名も「出前機」という、アルミ製の四角い「おかもち」を吊るして固定する装置が取り付けられていました。おそらく皆様が想像するとおりの、昔ながらの出前マシンがそこにあったわけです。

 

さっそく砂埃が立つ広大な駐車場で走行練習を始めたのですが、最初のうちはなんともいえない操作感だなと思いましたね。特にシフトチェンジに慣れるまでは。スーパーカブを凄く雑に表現すると、「エンジンが付いてる変速ギア付きママチャリ」でして、走行中は3段くらいあるギアをこまめに切り替えて走る必要があります。しかもこのギアは「ロータリー式」なっており、トップギアからさらにギアを踏み込むと、ニュートラルに戻る仕様になってるんですよ(ここ10年くらいに生産されたカブはリターン式です)。

 

なに言ってるか分かんないと思うので結果から言うと、このギアの癖があることで最初のうちは苦労しました。じゃじゃ馬にでも乗ってるような感じで(勝手にじゃじゃ馬みたいな走りをしてただけですが笑)、何度か「海鮮中華あんかけそば」が、おかもちの中で流出し、あちゃーとなったりしました。幸いお客さんは寛大な人ばかりで助かりましたが、食堂の主人が「仏の顔も三度まで♪」とか歌いながら料理を作り直すのを眺めて、あ、次やったら殺されんなと恐怖しました。なんとか走りにも慣れ、その後は料理をぶちまけたりすることは皆無でした。

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半年ほどスーパーカブに乗る中で、色々と実感することがありました。まず、「スーパーカブは一種のコスプレ」という心得です。最初のうちはローリングストーンズTシャツなんかを着て乗ってましたが、たまに歩道を歩いてる女子高生なんかに指を差して笑われてしまいました。当初は謎でしたが、ある時ショーウィンドウに映り込んだ自分とスーパーカブの姿を見て、「うわ~、クソだせぇッ」と思わず大声で叫んでしまいました。正確にはダサいというより、スーパーカブの風情と私のファッションがまるで合ってなかったという感じ。


で、どうにかスーパーカブと自分を一致させ、世間に恥ずかしくない姿に仕上げるにはどうしたらいいかと真剣に考えました。で、なんとなくホームセンターをウロウロしていると、製造会社の社員が着てそうな、ちょっと生地がしっかりしてるジッパー付きのジャケットを見つけ、「これだ!!」と直感し買いました。それを着てカブに乗ったところ、自分でも非常にしっくりくる感じがし、改めて走行中にショーウィンドウの映り込みを眺めると、そこにはもう完璧にカブと同化した自分がいました。その後、笑われたりしたことは皆無なので、完全に日本の風景と同化できていたのだなと自負しております。


バイクに乗る際の季節に合わせた着こなしも、この半年間になんとなくつかめました。ちょうど晩夏から真冬に向かっていく時期でしたし、ある気温帯ならどういう格好で乗るのが最適なのか、体感的に勉強できました。まあ12月ともなると、何をどう着ようと寒いです。何枚も着こんで最初は完璧かと思われた防寒も、時間が募るごとに寒気が服の生地を通り抜けてくる。特に手は寒くてヤバかった。バイト終わりは指の感覚が無くなり、店の外の自販機で熱いコーヒーを買おうとするも、呆れるほど小銭を落とし続けて、バイトを辞める決心を致しました笑。


そしてもちろん、自分なりにバイクで走る喜びを感じたことが体験として一番重要かもしれない。夕方出前を終えて帰るころ、田んぼの脇道を走りながら、黄金色の稲穂が風に揺れてさわさわと音を立てているのを眺めていました。そのとき唐突に、いまだかつてない感じで、重くのしかかるような安堵感がありました。間違いなく、いま自分は幸せだなと思いました。何故か知りませんが、遠くから故郷にでも帰ってきたような懐かしさがあふれる気分になったんですね。割と衝撃的な感覚だったので、今でも生々しく思い出せます。


いまもバイクで走っていると、この感覚に近いものを感じたりしますが、流石にこの時の衝撃ほどではないですね。ある感受性が急に開いた瞬間にでも出くわしたのかもしれない。いま自分がバイクに乗り続けているのは、言ってみればこの時の追体験をもう一度したいという思いからからもしれませんね。スピードに体を委ねてハイになるのではなく、風景の中をのんびり走って喜びを感じる。その目的のためにスーパーカブという、どこかのんびりしたバイクに執着している部分があるのかもしれない。後編へつづく。

 

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そういや『スーパーカブ』って邦画がありましたね(観てません)