口から出まかせ日記【表】

もうすぐゴールデンウィークですね(早)

ゆっくり動く勇気。

 

は最近、こちらから勝手に熱い視線を送っている人がいます。異性ではなくて同性です。出社の時に乗るバスの中で見かけるおじさんが妙に気になります。恋の始まりでしょうか。ま、んなこたぁないと思います笑。おじさんの何が気になるのかというと、所作です。おじさんがバスに乗りこんで、目的地でバスから降りるまでの一連の動作が、他の人と比べて格段にゆっくりで、しかも優雅なんですね。それを眺めるのがすっかり癖になってしまいました。


おじさんは紳士然とした印象の趣ある人で、たぶんまだ50代くらいじゃないかなと思うんですが、ステッキを片手に携えています。とてもしっかりした足取りなので、おそらく怪我をしたわけでもなさそうです。つまり、純粋な嗜みなのでしょう。私もいつかステッキの似合う男になって、東京の根津あたりをうろうろしたいもんだ。


おじさんはバスの扉が開くと、ステップを一段ずつ感触を味わうように上ってきます。それから、白いパナマ帽の頭を片手で抑えながら(毎回違う帽子をかぶってくるのがお洒落)、車内をゆっくり見渡し、ふと見定めた席に静かに収まる。もうこの時点で他の客とまったく印象が違うので目立ちます。なんていうのか、私からすると、ひとつひとつの動作を意識的にやっているのが分かるのだけど、別に不自然というわけでもなく、寧ろ、とても洗練された動作に映るのですね。


降りる時も貫禄があってかっこいい。ちゃんとバスが完全に止まってから、ゆっくりと席から腰をあげます。「コツ、コツ、コツ……」と、控えめにステッキの音を立てながら、緩慢といえるほどゆっくり降り口に向かい、ICカードのケースを懐から出してスマートに清算したのち、帽子のつばを指先でつまみながら運転手さんに軽く頭を下げ、ステッキの音と共に姿を消す。一種の余韻が車内に残ったまま、バスがまた動き出します。

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ゆっくりした動きの人は、もちろんおじさんの他にもいるんですが、ほとんど年配の方だし、意識的にというより単に体力的に仕方ない感じです。見てる側も「こりゃ仕方ないな」と思いながら、バスから降りるのを眺めるわけです。乗客って残酷な所があって、その人の姿や身なりを見て、気分的な許容範囲を決めるようなところがありませんかね。降りるのに手間取っていると、内心イラっとしたりとか、私もよくあります。もしかしたら持病か何かで思うように動けない場合もあるのに関わらず。

 

話を戻すと、バスのおじさんみたいに意識的にゆっくりした動きをするのって、なかなか勇気がいるんじゃないかと思うのです。特に公共空間では。例えば美術館で展覧会を眺めている時、自分のペースで絵を眺めるのは案外難しいものです。その場にどれくらい人がいるかで違いは出てきますが、ゆっくり眺めたくとも、あとから人が押してきてペースを乱されてしまうことってよくある。地域や場所柄によっても、標準的な行動のペースって変わってくるものですが、そこから少し外れたペースで行動しようとすると、他人から何かしらの干渉を受けやすくなります。


そして、日本では公共空間での動きのペースってどうにも早いし、そういう動きが望まれるプレッシャーが強い(ほぼ日本しか知らない私が言いきるのってどうかと思うけども笑)。早いペースからの逃げ場もあるので(私なら寺社仏閣や公園、墓地なんかがすぐ思い浮かぶ)、そこが自分のペースを取り戻す「オアシス」となるわけだけど、そこから「本流」へ戻る時には、本来の自分のペースを多少殺して調整する必要があります。


お、なんかだいぶ極論めいてきたな笑。ま、日本だって都会と地方でも違いが出てくるでしょう。私が住んでる田舎のあたりだと、トラックが時速80キロで飛ばす砂埃が立つ道の脇を、お婆さんが手押し車を引いて時速500メートルくらいで歩いてたりします。それぞれが自分のペースに妥協しない光景が広がっている笑。そのお婆さんは、バスのおじさんとはまた別の、勇気や心構えを持って歩いているような気がします。


まとめとして言いたいことは、ペースを自由に変えられる人が、誰かに同じペースを強要するのは、当然のことながら、けしからんと思うのです。ただ、その強要的な圧力が出現する場所は(リアル・ネット空間問わず)どうしたって存在するので、そこで個性的なペースを維持するためには勇気を必要とします。さらに理想をいえば周りの人も、固有のペースを持っている人に対して配慮できればいのですが、それもまた誰かに強要はできません。難しいですよね~。なんかもっと、みんなのんびりすればいいのに。月曜日みんなですっぽかせば怖くない笑。

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動きがスローな洋楽のMVといったらコレ。