口から出まかせ日記【表】

もうすぐゴールデンウィークですね(早)

静寂の暴力な映画の話

 

前、ビールについての記事を書いたところ、同じはてなブロガーのオレンジ (id:mata1)さんからこのようなコメントを頂きました。

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映画でありますか。なるほど。そこで、自分が今まで観てきた映画史を思い返してみると、まあ大抵ブルースウィルスとかキアヌリーブスあたりが酷い目に遭ってたり、サメやプレデターあたりが人間に酷いことをしたり、遺跡調査に行ったら5千年の呪いが解き放たれたり、ビートたけしがチャカをぶっ放したりする映画しか観てません。はっきりいって自分が映画を語るなどするのは片腹痛いと思うのです。


でも、せっかくリクエストを受けたのだから挑戦してみたらどう? と、今は亡き祖母の声が、何故か知らんが聞こえた気がしたのでやってみる事にいたします。ただし、印象に残った映画をジャンルとか関係なくいくつか適当に並べてっていうのは、ちょっと雑然とし過ぎなんで、記憶をもう少したどり、印象が似通った映画をいくつか思い出し、迷いに迷ったその上で、二本の映画に厳選してみました。


で、今回紹介したいのは「とにかくすんごい静かな映画」です。映画の世界は暴力に溢れ、無駄に研究所が爆発したり、地球がおかしくなったりしますが、そんな描写は一切ないのにもかかわらず、その静けさに暴力性すら感じるほどの静謐な映画もある。ということで、ものすごーく静かな映画を、今回は二本だけ紹介させてください。

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①『大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院』

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まずこれ。映画館で見たのが6年くらい前ですか。元々2005年公開の映画だったはずですが、10年近く経ってようやく日本語字幕付きになって再上映されたのを観に行ったんじゃないかなぁ~みたいな記憶があります。なんで観ようと思ったのか分かりません。まあかなり暇だったんじゃないでしょうか。


フランスの山奥にある、雪に閉ざされた歴史ある修道院の内部に潜入。史上初めて修道院の生活を撮影したドキュメンタリー映画。そんな触れ込みだったような気がします。たぶんカフェオレかなんか飲みながら観てたんですが、「これって無音映画か?」ってくらい、最初のあたりはまるで音がナッシング。妙に黄色みがかかった灰色の景色の中に、重厚に佇む建物。そこからすーっと現れた修道士が、なんかよくわかんない畑っぽいとこでなにかを拾う光景。音がなーい。ナッシング。


それから内部の光景に移りますが、流石に修道士の日常生活に近づくと、自然な音は当然出ます。が、それがかえって孤独な沈黙を強く呼び起こす。衣擦れの音。聖書を開く音。窓からの微かな隙間風。蠟燭の微かな炎の響き。圧巻は修道士が院の内部を歩く時の、「沈黙の粘性」のような感触が伝わってくること。なんだか、建物の内部に満遍なく粘りっこいような空気が満たされていて、音を立ててもそいつにすべて吸収されてるから、こうも音が出ないんじゃないかといった感じなんです。なに言ってるか分かんねえぞと思うのなら是非映画を観るべし。


映画の終盤近く。晴れた日に修道士が並んで外に出て、雪が積もった光景の中をどこかへ歩いていくのですね。どこか沈鬱な表情で。なにか試練を感じさせる印象。やや緊張が走る。と思ったら、なんとまあ修道士ってそんなエンジョイしていいんですかと思うような光景が。まさしくここがこの映画のハイライトですね。この時、それまでの沈黙がパァッと晴れて、すごく晴れやかで幸せな感覚になるはずです。なんだおい気になるじゃねえかと思うなら、DVD買え。

 


②『ニーチェの馬』

 

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前の映画は前座。この『ニーチェの馬』こそ、キングオブ静寂の暴力な映画の王に君臨するにふさわしい。私は全く予備知識なく、なんとなく哲学めいたタイトルに惹かれて観たのですが、いやぁ、この映画はマジで暴力そのものだ。静寂と退屈のヘドロに体が埋もれていく感触を味わった。隣で観ていたおばさんも、観終わった後、悄然とした顔で私と顔を見合わせるほど。


舞台はおそらく19世紀末から20世紀初頭でしょう。タイトルにもある哲学者ニーチェは、晩年に狂気に陥り、伝えられる逸話として、一頭の馬車馬の首に縋りついて泣いていたとか言われています。そのニーチェに縋りつかれた馬の「その後」がこの映画で語られているとも言われますが、語るも何も、この映画がひたすら提示するのは重苦しいほどの静寂と退屈。音といえば、荒野のすさびく風、薪のはぜる音、芋の皮をむく音、戸外から聞こえる嬌声、馬の蹄鉄の音と嘶き。これが2時間26分続く。


そんなに退屈なら映画として成立するのかと思うかもしれませんが、成立します。この静けさと単調さから、まったく目を離せなくなります。老いた父親と一人娘が、荒れた家でただひたすら倹しい生活をする光景が流れていきますが、それは凄まじく退屈であると同時に、まったく退屈すらしないという、謎の矛盾に陥るのに内心驚愕しました。父と娘はほとんど対話を交わさず、沈黙の時間が続きますが、(なぜこのタイミングで?)と思うような瞬間に、よくわからない陰鬱なBGMが流れ始める。それは父か娘のどちらか、もしくは両者が、個人的な絶望を感じた瞬間の表現であるのかもしれませんが、正直、計り知れません。


そして、馬。もちろんタイトル通り馬は出てきますが、動いてるのはほぼ最初と最後だけ。あとは馬小屋で静かにしているだけです。この馬こそニーチェが縋りついた馬なのか、そうじゃないのか。そもそもよく分からない。ただ最後に、馬は何故か歩みを止めて動かなくなります。老いた父親がどう罵っても、全く前に進まない馬。その馬の眼球を覗き込むようにアップがかかるものの、そこで「ちわ~、ニーチェです」とかいって本人が現れるわけでもない。ただひたすら途轍もない疲労感や、すべての人間が忘却しているのかもしれない根源的な絶望が、一点の光も感じられないその馬の瞳孔から読み取れる気がするような、しないような感覚だけが心に残る。そのあと俄かに会場が明るくなってからの、観客の困惑のどよめきは、たぶんずっと忘れないと思いますよ。

 

いかがでしたでしょーか(∩´∀`)∩ ということで、ものすごい静かな映画を二本選ばせて頂きました。細田守とかアベンジャーズとかちょっと厳しくなってきたなと感じたら、この二本、おススメです。ちなみに私が選ぶ映画のフェイバリットは、『子連れ狼 三途の川の乳母車』です♪

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